竜の血を引くものたち〜第二章 深まる疑惑と疑問の数々

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2003/9/13  だいいっかい
 「あそこか?」
 「はい……あの女はあそこの宿に泊まったようです……冒険者たちもともに」
 夜の闇の中、街道脇の宿屋をいくつもの目が見つめていた。
 黒を身にまとった彼らは闇に同化するように溶け込んでいた―――いつかの黒装束の男たち。
 風の音や虫の音しかしない闇の中に、小さなけれど確かな人の声が響く。
 「街道脇の宿屋か……好都合だな。町で騒ぎを起すわけにはいかないからな」
 「しかし……一般人を巻き込むわけには……」
 「仕方がない、あの女をこれ以上野放しにするわけにはいかないんだ」
 「し、しかしリーダ……」
 「あの女があの方の元へともどる前にどうにかしないと、この大陸中が混乱することになるかもしれない」
 「……」
 「被害は最小に押さえろ……なるべく他の客を巻き込まないように。あの女もそうだが……一緒にいる冒険者たちも並みの使い手ではない。それを忘れるなよ」
 「……わかりました」
 それっきり声は途絶え、何事もなかったように虫の泣き声、風の吹く音だけが響く。

 ――――!
 五感を揺さぶるような妙な感じ。
 なんともいえないそれに意識を揺り動かされ、ディアは目を覚ました。
 跳ね起きるように上半身を起す。
 「……敵の襲撃?」
 横のベットでは同じようにパールが身を起していた。
 「でぃあ……敵さん来たみたいねぇ」
 相変わらず間延びした言い方だが、声には少しだけ緊張の色が見えていた。
 「……そのようね……」
 ディアとパールは一瞬だけ視線を合わせると呪文を唱え始めた。
 術を唱えながら、手元の枕を引っつかむディア。
 その隣でパールの術が完成する。簡単な術だ、唱えるのに時間がかからない。
 ベットから降りると、二人とも立ち上がった。
 ディアとパールの視線の先、この部屋に入る唯一の扉の向こうでー―殺気が膨れ上がった。
 扉が外側から押し開けられる。蹴り飛ばしたかのような勢いで。
 同時に、ディアは手にした枕を懇親の力で投げつけた。
 そしてパールは術を、解除する。
 扉の向こうにいたのは黒服がふたり……跳んできた飛行物体に驚きの顔をし、慌てて上体をずらす。
 さすがにいきなり枕が投げられているとは思っていなかったのだろう……枕の直撃を受けるようなへまはしなかったが。
 そこに、パールが術を使って天井高く浮かしていた毛布が、慣性の法則にしたがって落ちてくる。
 「うわっ!」
 後ろにいたひとりは後ろに飛んでよけたが、もうひとりはまともに毛布をかぶった。
 混乱と視界を防がれたことで行動が鈍った黒服に――ディアの術が直撃した。
 「――! ぐっ……」
 ざあ……。
 その男は毛布ごと砂になって崩れ落ちた。
 「――っ!」
 あっさりと味方がやられたことに、残された黒服の表情に動揺が現れる。
 こうもあっさりとやられるとは考えてなかったのだろう―――この間とは違い、手練を集めてきたのだろうから。
 もっとも、さっきのは相手の意表をついて、不意をついたような物だったが。
 しかし、相手はすぐに動揺を打ち消すと、ディアとパールへと襲い掛かってくる。

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