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2001/11/22 題目思案中 4
辺りでは耳を劈くような音が氾濫している。
悲鳴や泣き声さえ混じっているようだ。 だが彼の周りは不気味なほど平穏で静かだった。彼の耳は、眼は、いや五感全てが一旦休みに入ったようにその機能を停止してしまっているかのようだった。 いや実際そうだったのだ。彼はそのことに今気が付いた。彼は横になって、気を失っていたのだ。 彼は目覚めると周りを人に囲まれていたのを知った。 「大丈夫かい、いったい何がどうなっているのかね。」警察の人間らしきスーツ姿の男が尋ねた。 まだ頭がごっちゃになっている。少しずつ解きほぐす作業に入る必要がありそうだ。 雄一郎は今朝早く目覚めた。町を徘徊し、それを眺め、考えるうちに生き方の見直しを図ろうと決意し、意気揚揚とした気分でいたのだが、陽がもう傾き、沈みつつあることにようやく気が付き、ひとまずバイト先へむかったのだ。雄一郎はこのところ大学に足が向かなくなっている。その代わりというのは何だが、バイトには精を出していた。別に何かが欲しい訳でも社会勉強の為でもなく、いわば暇を潰す為にバイトを始めたらいつの間にかそっちが主体になってしまっていた。平日はいつも夕方から深夜まで駅前のビルにあるレコード屋で働いている。正確にはまだ最近働き始めたばかりだった。以前はスーパーに勤めていた。レジ打ちでもやろうかと思っていたのに、いつのまにか青果係にまわされ野菜等を運ぶのに嫌気が差していた。勿論そんな態度であったため失態は多かったし、店長にもよくなじられ、結局辞める事になった。だから今度は真面目に働こうと思って、野菜よりは興味のあるCD等を扱うレコード屋にしたのだ。店長はいろんな意味でイイ人であり、フカイ人であり、得体が知れなかったが、基本的には気が合い、ここまではうまくやってきた。それで若干早かったがここへ来たのだが・・・。最初は何がなんだか解らなかった。 ≪つずく≫
2001/11/21 旅立ちの朝
雄一郎は漫画喫茶を出てからというもの、思索というものの滑稽さに対しての笑いが止まらない。
「所詮内面的でない奴等など愚鈍だと日頃思いつづけていたが・・・何の事はない。」 早口でつぶやく雄一郎。 と、急に声を荒らげ、叫んだ。 「本当に愚かなのは、考えるだけで何もしない俺だった!」 彼の異常な言動に驚く町の人々。 有名企業の巨大なビルディングの屋上から浅黒の男だけが無表情で彼を見つめていたのは、誰も知る由がない。 雄一郎は全力で走り出した。 それは疾走というに相応しい。 一陣の風となった彼を、止めるものはいない。 普段運動不足であるはずの彼の表情に、走ることの苦痛は伺えない。 むしろ、恍惚としている。 落ちかけた陽が彼を後押しし影は伸びていく。 点きだした燈だけが彼を照らしていた。
2001/11/15 題名思索中 3
彼は街を歩いている。静かだ。深呼吸をすると辺りに自分の白い息が拡がっていった。街灯に掛かった商店街のペナントが揺れている。街はまだいつもの息を取り戻していない。だが、登校や出勤途中なのかヒトの姿は見かけられる。
「こいつらは一体何を考えているのだろう。マチもまだ動いてないのに。いや奴らが動くからマチが目を覚ますのか。しかし、この違和感は何だろう。動かすものに突き動かされているようにミえる・・・」 辺りは俄かに活気づいている。雄一郎は暇をつぶそうと24時間営業の漫画喫茶に入っていた。周りを見回す。ヒト気は減り、顔ぶれも変わっている。さっきまで2つ先の席で寝ていた2人組のコギャルや向かいにいたネクタイを着けずスーツを乱していた男等は姿を消していた。知らぬ内に結構時間が過ぎていたようだ。彼は一人呟いた。 「今の今まで何をしてたのだろう。漫画を読んだつもりもないし、何かを口にしたつもりもない。眠っていたとでもいうのか。あのコトがあってから確かにいろんな意味で疲れていた、だが、こんなところで寝ようとは思わないだろう。思索を巡らしていたのか・・・」 彼は静かに噴き出した。思索してたかどうかを思索している。急に馬鹿らしくなって彼は席を立った。もう動き出している街に向かって。 少し離れた斜め向かいのところにその男は座っている。彼の肌はコーヒーにも負けない色をしている。一心不乱に漫画に向かっているようだが周囲への警戒も怠ってはいない。無論雄一郎の姿へも定期的に一瞥を投げかけている。 もう日差しも強くなった。だが温度はまだまだ低い。ショーウィンドウの結露が幾筋もの涙を形づくっている。
2001/11/12 題目思索中2
雄一郎は家路をゆっくりと歩いている。
すでに冬が猫の足取りで忍び寄っている。風が冷たい。街角に明かりが点るのも早まり、そこかしこをコートを羽織った人の群れが往来している。枯葉が足元を急ぎ足で通り過ぎていく。溜め息が似合う季節になった。 商店街では色んな人がみかけられる。夕飯の買出しの主婦、忙しそうな店員、仕事帰りのサラリーマン、暇そうに町をナガす高校生たち。だが毎日が同じ風景の繰り返しだ。 「何かしらの刺激が必要かも知れない。このままではいけない気がどこからとでもなく自分を苛んでいく。このまま社会の鋳型に自分をはめ込んでいっていいのだろうか。ここにいる奴らは皆、メがミえていないようにミえる。同じ生活、同じ風景に満足などできるものだろうか。俺は違う。俺は・・・。だが・・・」 雄一郎は周りとは違う思索を自分ではいつもしている気がしてた。だが、それも鋳型から抜け出せない、その中に組み込まれたものであることに彼自身気付いている。自分の弱さに目がいき始めている。しかし、いやだからこそ、刺激、刺激が必要なのだ。雄一郎を取り巻く環境は大きなひとつの渦。雄一郎は渦に飲み込まれぬよう必死でもがいているつもりであった。 商店街を抜けた一角にあるパチンコ店に勤める浅黒い男は通る人々を注意深くしかしそれと気付かす事なく観察している。彼の眼光は鋭い。彼の浅黒い肌は風景に安易に溶け込まれない力強さを発散している。 「雄一郎!なんなの、この成績は!」母の怒鳴り声が響く。「こんな成績じゃ、一流企業に入社できないわよ!」しかし、雄一郎は表情一つ変えない。反論せず、ずっと自分が今なにをするべきなのかを考えていた。 翌日彼は家を出た。まだ朝靄が振り払われない時間に。
2001/11/9 題名思索中
この一週間の間で彼の身辺ではいろんなことが起こった
それは彼の人生観をも揺るがすモノの連続だった 男は呟いた「寝るトコねぇな・・・」 浅黒い手の指に、煙草が挟まれている。 カップとソーサーの立てる音が辺りを踊っている。 昼下がりのカフェテラス、男は無言でコーヒーを前に思索に耽っているようだ。 肌が浅黒い。大きな目をしている。 何処を見るでもなく、ただ座って煙草をふかす。 動きはほとんどない。 周りに客の姿もほとんどない。 雑談の声が、まばらに聞こえるばかりだ。 ・・・ 大学生、雄一郎は家路を急ぐ。 色白で眼鏡を掛け、痩せ型の男だ。 彼は街というものが嫌いだ。 何より、人込みを好かない。 大学から駅までの道は、決まって学生達の群れが彼の行く手を遮っているようで、それが彼にはたまらなく不愉快なのだ。 時計は夕方の4時を少し回ったところである。 彼は電車に乗ることも嫌いだ。 満員電車の中、彼はあからさまに顔をしかめる。 彼の生来持つ精神的パーソナルスペースは意外に広く、誰もがそうであるようにそこに他人が入り込むのを許さない。だが彼の成長過程において、蔦のように絡みつき彼を縛る弱気により暴発等は抑えられていた。弱腰が忍耐を鍛えたとでも云うのか。 地元の駅のホームで神経質そうに彼は呟く。 「ゴミどもは皆死ねばいいのだ・・・」 後ろで、そんな彼を横目で見る男がいた。 浮浪者然としているその男は雄一郎が呟く様を見ると、唇をかすかに歪め、声もなく笑うのであった。彼の肌は夕日を吸い込み鈍く浅黒い暉を放っている。 日が暮れようとしていた。 |
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